第3章 関ヶ原
満身創痍の武将二人はもはや立つのがやっと
であった。しかし、その眼はまだ闘志を
宿していた。“お前らの首級を寄越せ”と
訴えている。なんと恐ろしい奴らだ。
そんな二人に怖気づき、遂に敵兵は
「引けぇ!引くのだ!」と退陣し始めた。
だがそれは豊久にとって屈辱でしかなかった
兵子共は無駄死にとなり、手柄もない。
そんなことがあってたまるかと豊久は叫ぶ。
「待て、直政・・・ふざけるなよ手前ぇ・・・!
首置いてけ!直政ぁぁあ!!!」
叫ぶ我が主を見つめる久忠は胸
が痛んだ。豊久の気持ちが分かるが故に。
『豊久様・・・』
「久忠・・・すまん・・・手柄も取れんで
お前(まあ)を傷つけて、兵子共も無駄死に
させっしもた・・・・・」
『なんの・・・私は豊久様と共に戦場に出る
と決めた時からこの命、捨てがまる覚悟
で御座います。兵子達もきっと皆同じ想いで
御座いますよ。』
「そうだといいんだがの・・・」
珍しく豊久が意気消沈している。
『きっとそうで御座います。それより豊久様
お怪我を治させて下さいませ。この傷では
薩摩へ帰れませぬ。我らだけでも薩摩へ
帰りましょう。義弘様が首を長くしてお待ち
になっているはずで御座います。
それに、今ここで死んでは義弘様に怒られて
しまいますよ。』
久忠は励ますように微笑んだ。
「そうだの・・・怒られたくなか・・・」
久忠の微笑みにつられて豊久も笑った。
「すまんが怪我治しちくいや。そいで薩摩へ
帰るど。共に。」
『・・・はいっ!』
久忠は素早く包帯を出し、豊久の体に
手際よく巻いた。
「あいがとうな、久忠・・・」
『とんでも御座いませぬ。』
「そいなあ、帰るか、薩摩へ・・・」
豊久は久忠の肩を抱き、立たせた。
彼は申し訳なさそうに顔を伏せたが
豊久は気にするなと声をかけた。
『ありがとうございます。』と礼を述べ、
久忠もまた豊久の腰に手を回し、
支えるように体制を整えた。
そうして二人の武将は森の中へ歩き始めた。