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紅の君

第3章 関ヶ原


豊久が大きく飛んだ。まるで槍の壁を越える

ためのようだった。

空中を舞う豊久に気を取られる兵を

久忠が次々に斬り倒す。兵は慌てて

久忠に向けて槍を伸ばした。

これこそが彼の狙いであった。

己が一本でも多くの槍の的になることで

我が主に向けられる槍を減らすのだ。

そうすれば我が主は死なずに済む。薩摩へ

帰すことが出来る。

無数のやりが久忠に刺さる。しかし

どれも致命傷にならないように久忠が

寸で回避している。

だが数があればなんとやらだ。彼が一本

の槍を避ければ別の一本が久忠を刺した。

『ぐぅっ・・・!』とついに呻き声が出た。

まだ、まだ死ねない。我が主が赤備えの首級

を掻き取るのを見届けるまでは!

『退けぇ!弱兵共が!』

あたりに怒号が響く。その叫びは

体中を槍に刺されている者が叫んでいるとは

思えぬ気迫であった。

だがもはやその体は生きているのが不思議

な程、満身創痍であった。無論、

久忠に槍を避ける力など残っていなかった。

しかし、槍は無慈悲に久忠を刺そうと襲う。

(もはやここまでか・・・)

小さな影は覚悟を決め目を閉じた。

(豊久様・・・申し訳ありません・・・)









































ッパァン!

銃声が聞こえた

目を閉じていた久忠は急いで目を開ける。

目を開くとそこには短銃を撃つ我が主、豊久と

その弾丸によって傷ついた井伊直政が居た。

豊久が己の命を的にしてあの最強と謳われる

井伊直政を討ったのだ。

敵兵は槍を捨て、井伊直政に駆け寄る。

そして槍と共に豊久も地面に落とされた。

『とよ・・・ひさ、さま・・・豊久様!』

久忠は豊久に這い寄った。

『豊久様!お気を確かに!死んでは

いけませぬ!豊久様!豊久様!』

我が主を薩摩へ帰すと決めたのだ。

どうか、どうか生きてくだされ。

その思いを乗せて久忠は叫ぶ。

「久、忠・・・俺(おい)はまだ死んどらん・・・

お前(まあ)も生きとったか・・・

お前(まあ)も死ぬるなよ・・・っ!

まだ直政の首級ば取っとらん・・・もうちくと

付き合うてくいや・・・」

『・・・っ!どこまでもお供致します。』


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