• テキストサイズ

紅の君

第6章 エルフの村


豊久は野太刀を思いっ切り投げ飛ばした。

敵将は投げられたそれを見事躱したが、豊久

が己に襲いかかってるとまでは考えて

いなかったのだろう、豊久の四肢に首を

取られ苦しがっている。何と呆気ない事か。

「はん!他愛なか。」と鼻をならした豊久は

自身の腰から刀の鞘を取り出し、構える。

その瞬間敵将の眉間に思い切り叩きつけた。

何度も何度もただひたすらに叩き続けた。

次第に敵将の顔は歪み、歯が抜け落ち、

先程の威厳はどこにもなかった。豊久は

ふう・・・と息をつきながら首をこきりと

鳴らした。そして再び子を殺された親を見て

少し考える様子でその者に近寄る。

そして先程投げ飛ばした野太刀を引き抜き、

泣き続ける父親の前に立つ。父親は何事かと

疑問に思ったが、豊久が今や虫の息の敵将を

指さした事で全てを理解した。

父親は首を横に振って拒絶する。だが豊久が

それを許さなかった。

「だめだ!やるのだ、やらねばならんのだ。

ここが何処で、お前(まん)らが誰(だい)であろ

うと!敵はお前(まん)らが討たねばならぬ!

こん子が応報せよと言っている!」

その言葉に村の者は心動かされ、久忠は

にんまりと笑う。豊久のこういう所が自分は

好きなのだと改めて感じた。何時、何処でも

己の生き方を曲げない姿が好きなのだと。

『ささ、ほかの皆様も武器を持ちましょう。

討つのは今なのです。』と久忠も己の脇差を

村の者に手渡し持たせた。

『討て。変わる時は今ぞ。今変わらんで

いつ変わるのだ。殺せ、あの男を。』

久忠は脇差を手渡した村人に語る。村人は

洗脳されたかのように各々武器を持ち、

慣れない足取りで敵将にじりじり近寄る。

そして渾身の力で敵将を惨殺した。

豊久の野太刀を手にしていた父親はがくり

と座り込み、豊久を見上げる。

豊久は顔を綻ばせ、「良か。」とだけ言った。

主の優しげな顔を見て久忠もまた微笑む。

「いよおーーーー!!!」

突然信長が颯爽と現れた。後ろには与一も

いる。豊久はじと目で二人を睨む。

「あんたら何やってた?こちとら病み上がり

だぞ。久忠も動かせよって・・・」

豊久の愚痴にもめげずに答える。

「まあ、色々とーにゃ!」後ろで与一も

「色々とー」と続いた。
/ 39ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp