第6章 エルフの村
信長はまぁまぁと豊久をなだめる。そして
「座るが良い。俺が座ろうも思ったのだが
お前座らせてやろうぞ」とぎらりと音が
付きそうな程口角をあげた。それに豊久は
じろりと睨むも、勧められた木箱にどさりと
腰を下ろし、ふんと鼻をならした。
久忠はそっと主の傍に控えた。
しかし、えるふの村人はいつまで経っても
ざわざわと騒がしい。
「なんじゃ。騒がしい奴らじゃ。」
『あの敵将を殺したことで揉めているの
でしょうか・・・?ひとまずは我らは離れた
方がよろしいかと。言葉も通じませんし、
これ以上長居は無用です。』
「そうだの・・・今日(きゅ)は疲(だ)れたじゃろ、
久忠。帰(もど)っ休もう。」
豊久はそう言いくるりと身を翻し元の廃城へ
歩を進めた。残る三人は先を行く侍に着いて
行くように各々帰っていった。
「今日(きゅ)は本当(ほんのこ)て疲(だ)れたな、
久忠。お前(まあ)の戦いは見事じゃった。」
豊久は昨夜と同じように久忠を己の体に寄せ
ながら心底嬉しそうに破顔一笑する。
久忠も嬉しそうに笑顔を見せた。しかし、
それは羞恥を隠しているものでもあった。
何せ昨晩と同じように慕う殿方の腕に抱かれ
ながら横になっているのだから。
『豊久様も流石でした。綺麗に敵将の首級
を刈り取ったのですから・・・』そう言って顔に
少し紅を含ませ、俯いた。その姿は誠に
女子の素振りそのものであった。その姿に
豊久はついにぽろりと本音を口にした。
「本当(ほんのこ)てお前を見(み)ちょっと
野風を思い出すな・・・」
野風ははっとした。いけない。
気付かれる。気付かれてはいけない。
『豊久様・・・私は野風ではありません。
島津久忠で御座います。お気を確かに・・・』
「久忠・・・俺(おい)の話を聞いてくるっか?」
『豊久様・・・?』
「俺(おい)が野風と別(わか)るっまでの話」
『っ!・・・お聞かせください。久忠はもう
豊久様のそのよう辛そうなお顔は見たく
ありません。少しでも楽になるのなら
お聞かせくださいませ・・・』
野風は手をそっと豊久の頬に滑らせた。
それを合図に豊久は己のぽつりぽつりと
心の内を語り始めた。