第6章 エルフの村
漂流者一行はまず村の現状を知るために久忠
を密偵に遣わせた。小さな体は少しの影にも
隠れることが出来た。
「で、どうであったか。久忠よ。」信長は密偵
から帰還した久忠に問う。
『やはり思った通り、正規兵でした。大将と
思われる者が村の者を集め、並べ、村の長で
あろう老人と話しておりました。言葉は
わかりませんでしたがその老人の表情、声色
からして何やら村の者が禁忌を犯したかと・・・
それと、兵が村の者達を何人か刺しており
ました。行くなら急いだ方が・・・』久忠は
信長に声を向けるものの、眼は主の豊久に
向けていた。
「俺(おい)が行(い)こ。行(い)っぞ、久忠。」
『豊久様ならそう仰ると思っておりました。
お供いたします。よろしいですか、信長様?』
「おう。好きにするとええ。存分に暴れて
くるが良い。」信長が島津二人の背をぱしんと
叩いて見送った途端、二人の武者は駆ける。
二人は村へ着くと、それぞれ周りの兵の首を
掻き切った。突然の事で敵兵の長は困惑して
いる様子だった。兵もじりりと引き下がる。
「首置いてけ!大将首だろう?おまえ!
久忠!大将首の手柄は俺(おい)に
譲っちくいや!」豊久はぎらぎら眼を輝かせ
叫ぶ。それを見た久忠はにたりと笑う。
『ええ、譲りましょう。必ずや、この久忠
に豊久様がその大将首を刈り取るお姿を
お見せ下さいね。私は周りの雑魚兵を始末
しておきましょう。』久忠は脇差を構える。
豊久は敵将を見やるが、ちらりと横に眼を
やった。するとそこにはまだ幼い子供が
殺されていた。そしてそれを抱き泣く親。
豊久はぎりりと歯を軋ませ、敵将を睨む。
「ようもやってくれたのう。貴様(きさん)
の首はいらん!命だけ置いてけ!」
どうやら豊久の逆鱗に触れたようだ。
こうなるともはや誰も止められない。気が
済むまでやらせなければ止まらないのだ。
久忠もそれを知っている。
故に何も言わないのだった。
『さぞかし見物だろうよ・・・豊久様に
殴られ、最後には降伏する姿は・・・』
うふふと笑いを零しながら久忠は華麗に、
そして理不尽な程あっさりと敵兵の命を
奪っていった。