第6章 エルフの村
信長は静かに地倒れている兵に目をやった。
すると突然、
『正規兵かと思われますな・・・恐らくえるふ
の村を統轄している領主の兵かと・・・村の
者が禁忌を犯し、その罰として滅ぼしに軍を
寄越したか、あるいは単に口減らしか力を
見せびらかしに来たかでしょう。子供にも
容赦がないということは前者の方が有力
でしょうね。女子供区別なく殺しにかかった
のでしょう。』久忠がつらつらと己の見解を
示した。その繊細な見解に信長も驚く。
「・・・であるか・・・正規兵なら村を奪ってくれと
言っているようなものではないか・・・」
『行かれますか?村へ・・・』久忠は微笑み、
つられて信長も口角をにたりと上げた。
「ようし・・・んじゃ、村を奪りに行くか!」
『流石は第六天魔王様ですな・・・この久忠、
微力ながら援護させて頂きます。』
「お主の主はええのかの?」信長は問う。
その問に久忠はふふっと笑い、こう答える。
『御心配には及びません。
我が主は戦に生き、戦に倒るるお方です。
助力は惜しまないでしょう。
己の力を出せるのは戦だけだと
仰る殿方ですから。』久忠、もとい野風
の声と眼は武士としての尊敬の意と、
一人の女としての恋慕の情が含まれていた。
そうして野風はそっと目を愛する男に
向けた。「・・・お主がそう言うのじゃから
信じよう。共に奪りに行こうではないか。
島津の力、頼りにしとるぞ。久忠よ。」
信長は手を野風の頭にぽんと乗せ、
すらりと優しく撫でた。“久忠”の名を聞き、
野風は元の獣に近しい武者の眼を取り
戻した。そしてにたりと笑い、目を伏せ、
『仰せのままに・・・第六天魔王様』と言う。
そうして豊久、久忠、信長、与一の四人は
“えるふの村”を目指し、再び走り始めた。
その姿は闇夜に紛れつつも大胆に獲物を
狙う獣の如きそれであった。