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紅の君

第6章 エルフの村


久忠が一人始末した後、豊久もまた一人を

始末した。「日の本言葉喋れねえなら死ねよ」

そう言って首を斬る。その地獄絵図のような

光景に小鬼もすっかり怯えきっていた。

そして鬼神のごとく騎士を殺した二人が

近寄る。

「お前(まん)らが助けてくれたんだろ?今度は

俺(おい)たちの番じゃな!」そのそう破顔した

豊久は優しい目をして小鬼たちに言う。

その目を見た小鬼たちも彼に敵意がないと

分かったのか、少しほっとした表情をした。

久忠は小鬼達の目線と同じ位に屈み、

にこりと笑い、頭を撫でた。「大丈夫ですか?

今、怪我を手当しますからね。」久忠は残り

少ない包帯を小鬼たちに優しく巻き付け、

止血を施した。久忠の小鬼たちを慈しむ表情

に彼らも落ち着きを取り戻した。周辺の空気

は先程の地獄絵図から一変し、まるで浄土の

天女が子供たちを愛しているような空気に

変わった。そんな和やかな空気を一撃で

信長と豊久がぶち壊した。

「そやつらはいいのかのお〜?そやつらも

日の本言葉なんぞ喋れんぞ?“死ね”

じゃないのかにゃあ〜?」

長い髪をざわざわとなびかせながら

正に魔王のような意地の悪い事を言う。

豊久は跋が悪いように顔をしかめ、唸る。

久忠もまた我が主がどうするのか静かに、

しかし少しはらはらしながら見守る。

「タスケテー。ほら、繰り返せ!」

あろう事か豊久は小鬼たちに日の本言葉を

教え始めた。無論、小鬼たちは首を傾げる。

「ほら言え!タスケテー!タスケテー!」

それでも豊久は諦めない。己の口を指差し、

何度も教え続けた。その教え方は半ば脅迫

じみていた。小鬼たちは脅されたかの様に

“タスケテタスケテタスケテー!!!”と

叫んだ。それを聞いた豊久はほっと安心して

「良か!一件落着!」と笑ってみせた。

『さ、流石豊久様・・・』その凄まじいゴリ押し

ぶりに久忠も苦笑いだった。

「凄いゴリ押しですね・・・」与一も呆気にとられ

「一向衆並のすごい言いくるめを見たな・・・」

信長もやれやれと言った風であった。
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