第6章 エルフの村
豊久と久忠が先陣を切り走るその後に信長と
与一が付いてきた。しかしながら、信長は他
の皆と少し距離がある。それを見た豊久が
ここぞとばかりに意地の悪いことを言う。
「遅ーい。遅いぞ!織田信長!どうした
どうした!第六天魔王!」正に悪餓鬼の如き
顔だった。それに待ったをかけたのは家臣の
久忠であった。がしかし、
『豊久様!そのような事を言っては
いけませぬぞ!信長様は約五十路ですよ!
お若く戦闘に長けておられる豊久様とは
体力が違いまする!』とあまり信長を
庇うものではなかった。それには信長も肩を
がくりと落とす。
「久忠よ・・・お主はわしを
庇うのか愚弄するのかどちらなんじゃい・・・」
そのやりとりに勝ち誇った笑みを浮かべて
与一が加わる。
「豊久殿、久忠殿、お幾つ?」豊久はきらりと
効果音がつきそうな程のしたり顔で「三十」と
だけ告げた。続けて久忠も『久忠は二十歳
で御座います。』と言う。久忠の二十歳を
聞いた途端与一はガッツポーズをとる。
「何(ない)だそん勝ち誇った面あ!」
豊久は腑に落ちないといった様子で叫ぶ。
与一は十九でこの中で最も歳が若かった。
騒がしく森の中を駆けている時、前方から
よろりと二つの影が見えた。子供だ。それも
先程豊久と久忠を助けた小鬼達だった。
血が出ており、大層痛々しかった。彼らも
また豊久達に気が付き、何かを叫んだ。
しかし、その叫びは後ろから迫ってきた
騎馬の轟音によって半ば掻き消された。
小鬼たちはもうだめだと諦め目を閉じる。
が、馬に乗っていた騎士が頭から血を
撒き散らして死んだ。信長の銃によって
撃たれたのだ。そして後ろに控えていた
二人の騎士も島津二人の餌食となる。
「久忠!目を覚ますついでに一人(ひとい)
始末しろ!俺(おい)はこっちを始末する!」
『承知致しました。豊久様。』
久忠は両腰からしゃらりと脇差を引き抜き
相手の首めがけて十字に斬り掛かる。
『我が主の手柄となれ。』それだけ言って
手に力を込める。騎士は必死に耐えているが
勝敗は既についている。『はああ!!』と
凄まじい殺気とともに、相手の首を
見事狩り取った。
体こそ小さけれども、返り血を浴び
不気味な程美しい笑みを浮かべたその姿は
正に鬼神のようだった。