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紅の君

第6章 エルフの村


とっぷりと夜が更け、廃城の者は皆眠りに

ついていた。しかし、そのまま朝を迎える

事はなく、何かの匂いに豊久と信長ががばり

と身を起こした。しかし久忠は起きない。

実は久忠、寝起きが少しばかり悪い。

些細なことでは中々起きず、それは豊久を

少しばかり悩ませていた。

「久忠・・・起き。久忠・・・」豊久は優しく久忠の

体をゆする。しかし起きない。豊久は少し眉

を下げて困った表情をしたが直ぐに匂いの

原因を探る。

「何だ?こん匂い・・・」

その答えとして信長が「火だ・・・」と呟き、

「森の向こうのえるふの連中じゃ。

野党か野伏せりか・・・襲われておるの。戦の

においじゃ。」とつけ加える。

豊久は信長が言った「えるふ」に疑問を持つ。

「えるふとは?」そう言いながら未だ起きない

久忠を寝床から抱き起こす。

その光景に信長は少し驚き、そして呆れた。

「何をしておる・・・久忠を抱えて・・・」

「久忠はなかなか起(お)きらんから何時(いっ)も

俺(おい)がこうしてやらんといかん。」

「寝起きが良くないのですね、久忠殿は。」

その光景に与一はくすりと笑った。

「そいで、えるふとは?」豊久が再び問う。

「森向こうに住む妙な連中じゃ。あれだ、

お前をここまで運んできた耳の長い・・・」

信長が答えている最中に豊久が走り出す。

「おい待て!行く気か!?」信長は直ぐに

制止の声をかけるが、紅の男は止まらない。

「ここがどこでどうなってるか何も知らん!

これが夢か現かなんもわからん!だったら

俺は突っ走る事しか知らん!久忠!

久忠!大概大概(てげて)げ(いい加減)起きろ!」

そう叫びながら豊久は去っていく。

夜の冷たい風と主の叫びによってやっと久忠

が目を開けた。が、まだ夢現の状態である。

「久忠!起き!お前(まあ)の好(す)っな戦ぞ!」

『・・・・・・・・・・・・戦・・・?』

「応!戦じゃ!走れ!」豊久はそう叫んだ刹那

久忠を放り投げた。久忠は見事に着地し豊久

と並走する。それを見た信長と与一は呆気に

とられた。

「なんじゃあ、あの一族。頭おかしいぞ。」

「流石日の本の武者と言いますか・・・」

そしてお互いに顔を見合わせにやりと笑い、

二人もまた走り出した。

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