第4章 廃城
しかし久忠の史実に信長は納得しなかった。
「待てえい!なんであのハゲネズミが天下
取ってんだよ!おかしいだろ!!
勝家死んだのか!?お市は!?丹羽は!?
一益は!?利家は!?」一息に次々と質問を
ぶつける。それには流石の久忠もたじろぐ。
『ええと・・・その・・・どこから話せば・・・』
「なんだぁもうめんどくせぇ!敵兵(やつばら)
全部(すっぺ)亡ぼして天下取ったんだよ!
織田家は今家康のお茶くみじゃ!天下布武
なんざだぁれも覚えちょらん!」
『豊久様・・・そのような言い方は・・・』
豊久の投げやりな言い方に久忠も苦笑する。
暫く沈黙を置いた後、信長は「信忠は・・・
息子はどうなった・・・?」と問いた。
『信長様が宿舎としてしていた本能寺を
明智光秀に責められた時に真っ先に援軍を
出そうと尽力しましたが、貴方様が自刃
されたという知らせを聞いて、直ぐさま
明智光秀の攻撃に対応する為に二条城に
籠城したと聞いております。しかし敵の
猛攻に耐えられず、信忠様もまた自刃し、
自分の首級を敵に渡さぬよう、己の遺体を
隠すよう指示したとも言われております。
信忠様は、最後まで闘って亡くなった
ので御座います。』
久忠の言葉に信長は聞くなり大笑いする。
島津二人は目を丸くするが直ぐに少し切ない
顔をする。その所以は信長が神妙な面持ちで
「バカ息子が・・・」と呟いたからだった。
彼の眼はかの有名な“第六天魔王”などと恐れら
れたものではなく、息子を失った“父親”のそれ
であった。なんと切なげな事であろうか。
「全ては無常ですなあ・・・」と与一はしみじみと
語る。その姿を豊久はじっと見つめ、
「あんたが信長ち言うたので、こん男が話に
聞く森乱丸かと思うたわ・・・」と言うので、
つい久忠はくすりと笑い、続いて言う。
『美しいお御髪(おみぐし)なので、女人かと
思ってしまいました。』
島津二人の声に信長は「だったら良かった
んだけどねえ・・・」と言ってみせる。
「私は反対に、一目見て貴方こそ女子(おなご)
かと思いましたよ。御髪(みぐし)は短けれど
美しく、肌も白い。体も小さいので女子
が戦場に出ておられるのかと思いました。」
その声に久忠は人知れず小さく肩を跳ねた。