第4章 廃城
久忠が小さく肩を揺らしたのを信長はしかと
見ていた。「こやつは何か隠しておる」と確信
した。そう思えば即実行する。
「久忠とやら。話がある。離れるぞ。」
急な申し出に久忠は眉を顰める。
『私だけですか?豊久様は・・・』
「いや、お主だけでよい。なに、先程の
関ヶ原について改めて聞きたいだけじゃ。」
『なるほど、それでは参りましょう。』
久忠はこの時自分が女である事を知られ、
過去を話すなどとは微塵も疑わなかった。
廃城から少し離れた丘で信長と小さな影が
話し込んでいる。話題は先程信長が言って
いたように関ヶ原の戦いについてだった。
「お主は豊久と違って学があるようじゃの」
『豊久様は戦の為に生きておられるような
お方ですから・・・私が代わりに別の知識を
有しておくことで何か役に立つのではと
思いまして・・・豊久様と共に戦に出る前は
書物を読み漁っておりましたから・・・』
久忠は少し切なげに、されど誇らしげに
そういった。久忠が口を閉じたとき、
信長は本題に踏み切った。
「久忠・・・お主、何か隠してることがあるの
ではないか?」久忠の顔が急に強ばる。
『・・・・っ、何のことでしょう・・・?史実は全て
真で御座いますよ?』久忠の声が震える。
「先程の話ではない。お主自身、何かわしに
隠してはおらぬか?」信長は眼光を鋭くして
問い詰める。
久忠は負けじと少し声を張り上げる。
『私が何を隠していると仰るのですか!?
私は島津久忠!島津豊久様の家臣に他なり
ません!私を疑っておられるのか!?』
ついに口調が乱れ始めた。それ位に久忠は
動揺していた。信長は落ち着き払った声で
「お主、女子ではあるまいか?」と告げる。
その問いかけに久忠は冷や汗を1つ垂らす。
信長はさらに続ける。
「先程与一がお主のことを女子かと思うたと
言うた時、お主は肩を揺らしたであろう。
正直に話せ。お主は女子か?」
久忠はとうとう追い込まれた。この男、
織田信長。目敏く、そして恐ろしい。
『・・・はい。信長様の仰る通り、私は女子に
御座います。しかし!豊久様には・・・』
「話さぬ。何か事情が有るのだろう。
お主の過去を話せ。」
『・・・・・・はい』