第4章 廃城
『羽・・・で御座いますか?』久忠は純粋に
首をかしげる。ちらりと横を見れば信長
が既に鳥の羽をむしり取っていた。
「あなた方の食料です。むしり候え。」
『ああ、なるほど・・・』久忠は納得し
素直に羽をむしり始めた。
むしっている最中は無心に黙々と羽を
むしった。やがて羽を全てむしり取り、
火にかけた。焼ける間、信長がふと
口を開いた。
「信長は死んだとか申したな。
やはり俺は死んだことになっておるのか」
信長は一つ溜息をして豊久に問いかける。
「おう。死んだ。京、本能寺で明智勢に
襲撃されたわ。もう、十八年前の話ぞ。」
豊久の十八年という言葉に信長は咥えていた
鳥の羽をぽろりと落とした。
「十八年前だと?馬鹿言え。ハゲが本能寺に
寄せてきたのも、この世界に俺がすっ飛ばさ
れたのもまだ半年と経っておらんぞ。」
「だから言うたのだ。だからお前はあの世の
鬼か亡者じゃ。でなければ、いかれよ。」
豊久がそう断言した時、突然髪の長い青年が
高らかと笑い始めた。
「十年二十年で大騒ぎしておられるのが何やら
もう可笑しゅうて可笑しゅうて・・・」
その物言いに豊久は食いかかる。
「あんたは。あんたは何者だ。」
『是非、お名前をお聞かせください。』
この豊久の問いには久忠も興味を示した。
信長はつまらなさそうに
「言うてやれ言うてやれ。」とこぼす。
そして髪の長い青年が口を開く。
「私は与一。那須資隆与一で御座います。」
月夜に照らされた美青年は与一と言った。
那須資隆与一。源平合戦の頃の人間である。
遠くに浮かぶ船の扇を見事射抜いたことが
有名な話である。豊久は驚愕し、叫んだ。
「嘘をつけえ!源平合戦の頃ではなかか!
四百年も昔の話ぞ!そんな馬鹿な話、
あるものかあ!」廃城が揺れる勢いの声。
与一は溜息を一つして続けた。
「馬鹿な話と申されましても・・・私は私で
御座いますれば・・・」
『本当に此処は地獄なのでは・・・』
久忠はとうとう頭を抱え込んでしまった。
静かな夜の廃城は少しばかり、否、だいぶ
明るく盛り上がっていた。