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紅の君

第4章 廃城


「久忠!しっかいせい!」

豊久は声を荒らげながら小さな体を抱え

込むように、且つ体を傷つけぬように、

優しい手つきでそっと抱き上げた。

「何をそんなに・・・。ただ寝とるだけだろうが」

信長は呆れたように大袈裟に首をすくめた。

「こいは俺の一番(いっぱん)大事(でじ)なもん

じゃ。こいだけは失いたくなか。」

それに、己が探している愛しい野風の

面影と重なるから。豊久は自身の心に呟く。

「なんじゃ、お主の若衆か?」

信長が意地の悪い笑みで問いかける。

豊久はその問いかけた主を睨みつけながら

「そんなんではなか。」と低く答えた。

「こいは俺(おい)が朝鮮に行(い)た時からの

付き合いぞ。もう七年近く共に居る。

俺の戦場の仲間(どし)じゃ。」

豊久は自身の腕の中で眠る久忠の

艶やかな髪をさらりと撫でながら語った。

その目は先程信長に向けた鋭さはなく、

愛し子をあやすような優しいものだった。

「そんなに大事ならばそやつより先に倒るる

でないわ。そちが生きておるのもそやつが

ここまで運んできたからじゃぞ。

主なら最後まで気張らんか。ふつけが。」

信長は呆れたように豊久を見た。

豊久は彼の言葉に目を見開き、そして

少し細めて微笑んだ。

「ほうか・・・久忠がの・・・あいがて。

あいがとうな、久忠。ほんのこつお前は

良か仲間(どし)じゃ。」

豊久は瀕死の己の命を守ってくれたその

小さな体をぎゅっと抱き寄せた。

『・・・・・と、よ・・ひさ・・・さま・・・?』

豊久に抱きしめられたからか、久忠が

目を覚ました。刹那、久忠は己が主に

抱きしめられている事に気が付き、

頬を紅色に染め上げる。

「ないぞひっ離(ぱ)いる?」

『だ、だって・・・あの・・・』久忠が己の

赤ら顔を見られないように顔を背けながら

腕を伸ばし豊久から離れようとする。

「なんじゃ、久忠。げんねかぶっとんのか」

豊久は家臣が恥ずかしがっているのに気付き

わざと顔を近づけた。

『と、豊久様!おやめください!』

「お取り込み中失礼致します。」

髪の長い青年が一つ咳払いして声をかけた。

『はい!』久忠が一番に答える。

「お手すきか?」と青年は問う。

『は、はい。一応・・・』久忠は言う。

「羽をばむしり候え。」





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