第4章 廃城
─・・・ひさ!豊久!──・・・おやっど・・・?
──初陣で侍首か!良か!良かにせじゃ!
・・・おやっど!
『豊久兄様!お会いしとう御座いました!』
野風!お前はいんまどこい居る?
ちくと待っとれ・・・いんま俺がみしけでっし
てやっからの!俺の・・・可愛(もじょ)か野風
どこいおる!野風!野風!
「おやっどぉ!野風!」という叫びと共に
豊久が目を覚ました。
「おあ、起きたか。頑丈な奴じゃのぉ。
縫うたばかりじゃ。あまり動くと死ぬぞ。」
「誰だ手前ぇ!誰だ!」
豊久はすぐさま臨戦態勢にはいる。
だが問いかけられた者は動じない。
「そちこそ誰ぞ?」と逆に問いかける。
近づくにつれ、男の顔が見えてくる。
そして一人は野太刀を首元へ、もう一人は
銃口を首元へ近づけた。
そして男が問いかける。
「そちは、どこの誰ぞ?」
豊久は男の後ろに織田家を示す木瓜紋が
掲げられている事に気がついた。
「織田家、家中のもんか?」
「家中?ふつけを抜かせ。そちの家来にも
言うたが、俺が織田で織田とは俺よ。」
得意気に男はそう告げた。
「俺は信長。織田前右府信長である。」
刹那、豊久は刀を横一文字に振るった。
だが男は攻撃を知っていたように避けた。
「はっ、信長だと?信長公はとうの昔に死んで
おるわ!なればやはり、此処はあの世で、
貴様は信長を語るあの世の鬼じゃ!」
豊久が追撃を加えようと刀を振り上げた。
途端、男と豊久との間に矢が刺さる。
「止めなされ。」有無を言わせぬ声だった。
月光に照らされて顔は良く見えない。
だが眼は鋭く、正に獲物を狙うそれだった。
「目が覚めましたか。重畳、重畳。」
豊久はふと、隣にいつも居る小さな影が
無いことに気がつく。
「おい。久忠はどこいおる。」
豊久の問いに二人の男は首を傾げる。
「俺の隣に居った小け(ちんけ)武者じゃ。」
「そやつならそちの隣で寝とろうが。」
信長が豊久の問いに応えた。
豊久はぐるりと体を反転させ元居た場所を
確認する。するとそこにはほぼ全身を
包帯で巻かれ、横たわる
久忠の姿があった。