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紅の君

第4章 廃城


『いや・・・あの、何を言っておられる』

「は?だから、俺は織田信長だって

言ってんだよ。」

お互い話が噛み合っていなかった。

『何故・・・』こんな所にと問おうとした時

視界がぐらりと揺れた。声が聞こえなく

なっていく。意識が遠のく。駄目だ。

久忠は必死に意識を留め続けた。

せめて己の主の世話を頼まなくてはならぬ。

『の、信長様・・・とよ、ひささまの介抱を

どうか、どうか・・・お願い申し上げます・・・』

そう言い残して久忠はついに意識を

手放した。

「こやつ・・・自分が瀕死の状態なのに主の心配を

するなんてのぉ・・・与一、こやつの手当ても

してやれ。」

「承知致しました。しかし、

この者も重症なのによく自分より大きな男を

運んだものです。」

与一と呼ばれた髪の長い青年は意識を

無くした久忠をまじまじと見つめる。

全身に刺し傷があり、

とうの昔に意識を失ってもおかしくないのに

よくぞここまで耐えたものだ。

濡れた手拭きで顔を洗うと端正な顔立ちが

露になった。男にしては少し白い肌に濡羽色

の艶やかな髪。少し小さめな口には愛らしい

桃色がよく映えている。傷がなければ

どんなに美少年であろうか。よく見れば

美少年の主である紅の甲冑の男も中々の

美丈夫である。隣で眠る美少年とは異なる

が、目鼻立ちははっきりとしており、その腕

は逞しく、その腕の凹凸が炎の光によって

美しい光陰を描いていた。

この者達の生まれ故郷は皆総じて美男美女

が多いのだろうか。

「こやつらが目を覚ましたら色々聞かねば

なるまいな・・・」信長と名乗る男がそう呟いた

「与一、こやつらの為に飯を用意してやれ。」

「承知いたしました。」

信長の指示に従い、

与一は弓矢を手に外へ出ていった。










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