第1章 プロローグ
川沿いの桜は見頃を終え、緑の葉へと姿を変えている。
梅雨が近いせいか、最近はわりと空気も湿ってきた。
ホームルームが終わった瞬間、
どこから来たのかとか、モデルはやっていないのかとか、ガラの悪い野郎やギャルたちに質問責めにあっていた転校生を横目に、キッドはそそくさと教室を出てきていた。
(空っていうより、海だよな)
頭上の空を見上げながらふと思った。
(イオリア・レイハ…)
彼女の髪の色や瞳を見た瞬間、なぜか目を奪われた。
心のずっと深い部分が無性に疼くような、そんな感覚だった。
ボーッとしながら歩いていると、
前方から真っ黒の生地にゴールドのヒョウ柄が部分的に施されているジャージを着た、トラファルガー・ローが歩いてきた。
ローは被っていたフードを取り、「よぅ」と手を上げた。
「よぅじゃねェよてめェ」
キッドは舌打ちしながらローを肘でどつく。
「さっき起きてよ」
「またコラソンに殴られても知らねぇからな」
コラソンは、つなぎ高の中でも問題児が詰め込まれている3年C組の担任を任されているだけある。
普段はドジだが、怒ったときはキッドでさえ怖気付いてしまうほどのオーラを持っている。
「しかもめちゃくちゃ強ェしよ…」
1度キッドとローが屋上でタバコをふかしていたのを見つかりコラソンに殴られたときは、さすがに死ぬかと思った。
ちなみに、「てめェも吸ってんじゃねェか」と反抗した為もう一発くらっている。