第2章 きっかけ
「明日必ずお金は、か、返すので…え、と…」
顔を真っ赤にし、目をキョロキョロさせながら話す彼女を見て、なんだか笑いそうになるのをこらえる。
(なんだってこの女、こんな緊張してんだよ)
「…あー、別に、いらねェ」
…なんて言ったってどうせ明日持ってくるのだろうけど。
「いぇあの…必ず返すので、えっと、ユースタス、キッド、さんですよね…」
「キッドでいい」
キッドはフイと目をそらして自分の席に向かい、カバンを手に取る。
あまり長々と話していたら気恥ずかしさに耐えられなくなりそうだ。
「…じゃ、気をつけて帰れよ」
背中越しにそう言って、キッドは教室から出た。
ー
キッドが教室を後にしてから、しばらくレイハは動かずに立ち尽くしていた。
(ちゃんと、お礼、言えた…)
フーーッと詰めていた息を吐き出す。
(男の人と、話した)
心臓がバクバクうるさいし、まだ少しだけ手が震えている。
「…ちゃんと自然に、話せたよね?」
下を向きながら独り言を呟いた。