第5章 12月17日【あと7日】
「椎名様」
「ん?なに?」
少し遅めの朝ご飯を食べ終わり、くつろいでいると死神が私に一つの提案をした。いや、お誘い、だろうか。
「一緒に散歩に行きませんか?」
「っ!」
私も行きたいと思ってた!とはしゃぎそうになるのをぐっと堪えて返事をする。そう。抑えて。
「うんっ!行く!絶対に行く!」
……。
私なりには抑えたつもりだ。だから、そんな目で見てくれるな、死神。
「そんなに行きたかったんですか?散歩、好きなんですね」
「あー……まあね。散歩はかなり好きかな」
素直になれない自分が歯がゆい。
私も死神と行きたいなって思ってたの!とか、可愛らしいセリフをさらっと言えたらいいのに。というか、言えると思っていた。少女漫画とかでは照れながら可愛く言うものだから、自然と言えるものだと思ってたのに。なかなか難しい。
「あ、気になってたんだけど、あんたって他の人からは見えないの?」
「はい。見えませんよ」
なら、大丈夫か。
他の人に見えるんだったら怪しすぎるもんね、その格好。白の仮面に黒のコート。怪しさ要素ありすぎ。というか、怪しさ満点。
「あと、名前なに?」
「へ?」
「え?」
名前なに?って聞いて、へ?って返されたの初めて。
「いやだから、名前なに?」
「あ、あー……名前?今更ですか?」
ぐさっと何か刺さった。
確かに悪いとは思ってる。でも、今まで聞く機会なんてなかったじゃない。
「俺は……特にないです」
「えー。ここまで溜めといて?」
そりゃないわ、と少し大袈裟に額に手をついてみる。
「それじゃあ……がーみん、とか?」
「がーみん?」
何そのネーミングセンス。
「死神のがみをとって、がーみんです」
と、自信満々に言い張る死神。
がーみんって……。
「いいっ!すんごい、いいと思う!」
何そのネーミングセンス。
ネーミングセンスありすぎでしょ。
「今日からがーみんね!」
意外な才能。