第3章 12月15日【あと9日】
「ただい────」
「13分遅刻です」
家の扉を開けてすぐ目に映りこんだのは、黒いコートを身につけて白い仮面を被った、腕を組んで仁王立ちをしている大きなモノだった。
「ごめん。遅れた」
「なに爽やかに言っちゃってるんですか」
だって学校から家まで30分くらいかかるんだもん、と言い訳をしながら靴を脱ぐ。
「まあ今日は昨日の件を例の方に謝る、という約束を俺としたので大目に見………え、なんでそんなに顔が赤くなるんですか?」
ぼんっと大きな爆発を起こしたように、顔が熱で真っ赤に染まる。ドッドッド、と象の行進みたいに心臓が早鐘を打つ。
「やっ、ほんと、何でもないからっ」
同僚に告られました。人生初です。
だなんて言えるわけがない。しかも、昨日揉めた相手だとか……言えるわけがないっ。
「……何かあったんですか?」
顔は見えないものの、死神の声がワントーン下がり、少し威圧感を感じた。
「何でもないって!」
まだ赤くなっているであろう顔を腕で隠しながらリビングのソファに腰掛ける。
「何でもないのなら、なぜそこまで動揺するんです?何かやましい事でもあるんですか?」
「な、何で怒ってんのっ?放っといてよっ……!」
死神の顔がどんどん近づいてくる。
顔を逸らそうにも、竦んでしまって目を逸らせない。
そしてついには、死神がソファの背もたれに手を付け、壁ドンならぬソファドンの完成だ。
「関係ないって俺を突き放すんですか?また、そうやってあなたはっ………!」
「え?あ、あの……?」
話に頭がついてかないんだけど。