第2章 12月14日【あと10日】
「おかえりなさい、椎名様。素晴らしいです!今は7時42分。18分も前に帰宅してきてくださるなんて!」
「あ、うん。ただいま」
どうして私は森下先生にあんな言葉を投げつけてしまったのだろうか。誰だってあんな言葉を言われたら傷付くに決まってる。
「もうすぐで夕飯ができますので、それまでくつろいでいてくださ────」
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【死神side】
「どうしよう……。私、最低だ。私のせいで彼を傷つけてしまった……」
ぎゅっと首に腕が回され、彼女に抱き寄せられる。一瞬、胸がどきんと大きく跳ねたが、どうやら今はこの熱い抱擁を喜ぶ所ではないらしい。俺を抱き寄せた彼女の腕が小さく震えているのが何よりの証拠。
「どうしたんですか?いいんですよ。弱音を吐いても。甘えてくれてもいいんです」
何より、俺がそれを望んでいるから────。
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死神の体は思っていたよりもしっかりしていて、骨張っていて、やっぱり男の人なんだなって思わされた。そして、私が思うよりもずっと温かかった。何より、慣れない手つきで優しく背中を撫でてくれる手がすごく心地よかった。
「私……同僚に大人気ないこと言っちゃった。あなたみたいな男性が一番苦手って言っちゃった……。すごく、傷付いた顔してた……。私が……私が……」
「そうですね。何があったのかは俺には分かりませんが、それを言われれば誰でも傷つきます」
ズキッと胸が痛んだ。
死神の言ってる事は正しい。的を得ている。だからこそ、私は苦しかった。
「でも、あなたはちゃんとそれを後悔し、こんなにも頭を悩ませている。大丈夫です。誰もあなたを責めたりしません。ちゃんと明日謝りましょう。ね?」
死神は、あなたは悪くない、だとかそんな都合のいい、責任のない言葉を言わなかった。私の悪い所をちゃんと指摘し、慰めてくれた。私は、この言葉を待っていたのかもしれない。
「うん。ありがと」