第2章 12月14日【あと10日】
【森下side】
「別に何だっていいじゃないですか。森下先生には関係ありません」
そう言って職員室を出て行く彼女の背を呆然と見つめる。結局、手紙は俺の手から奪い返さなかった。
「……んなもん、いらねーよ」
一瞬だけ躊躇ってから、それを破り捨てる。なぜ躊躇ったのかは分からない。だが、理由を付けるとするなら、少し罪悪感が湧いた、ということだろうか。恐らく、この手紙の主は彼氏だろう。彼女の為を思って書いた手紙を破り捨てるという行為が、彼女のことを裏切る行為と同じのように思えたのだ。
《森下先生には関係ありません》
何度も何度もリピートされ、俺の心を抉っていく。
分かっている。
彼女が俺のことを嫌っていることくらい。
彼女を意識するようになったのはいつからだろうか。彼女のことが好きだと気づいたのはいつだっただろうか。
気づけば意識していて、気づけば好きになっていた。
《森下くんってしっかりしてるわね》
これが俺の周りにいる奴らの口癖だった。
ちょっと近所の人に挨拶をしただけ。
ちょっと落ちていたゴミを拾っただけ。
テストで100点だって当たり前だった。あんなもの100点を取るために作られたテストだ。
周りが《すごい》と俺を褒める度に
周りが《しっかりしてる》と俺に言う度に
周りが俺に仕事を任せる度に
俺は自覚した。
ああ、俺はしっかりしているんだ。俺にしか出来ないんだ。周りには出来ない奴が多すぎる。
そう思い、自惚れた。
そして気づけば大人になっていた。