第17章 お食事会
普通なら、ここからは一緒に店を出て帰る事になるんだろうけど。
生憎と私達の状態は普通じゃない。
食事を終えたから、って一緒に帰る事は出来ない。
そんな事をしたら、わざわざ時間をずらして店に来た意味が無くなってしまうから。
「…あの。」
予定通り、先に帰る支度をした2人を呼び止める。
まるで、合わせたかのように同時に振り返ってくれた。
「これ。岩泉さんに…。」
「…あ?」
助けてくれたお礼。
いらないと言われていたけど、用意していた紙袋を差し出す。
岩泉さんは意味が分からないみたいで、眉を寄せて怪訝そうな顔をしていた。
「岩ちゃん、女の子からのプレゼントは笑顔で受けとるもんでしょ。
それとも、いらないの?なら、代わりに及川さんが受け取って…。」
「テメェに渡す義理ねぇべや?」
横で見ていた及川徹の方が、紙袋の取っ手に手を伸ばしてくる。
その手を振り払って岩泉さんが引ったくるように紙袋を取った。
「…サンキュ。」
照れ臭そうに頬を掻いている岩泉さんと、ウィンクで何か合図をしてきた及川徹。
あ、もしかして。
岩泉さんが、こういうの受け取るのが苦手って知ってたから、あんなふざけた事を言ったのかな。
ムキになって、受け取らざるを得ないようにする為に。
及川徹の意外に気を遣う一面に気付いて、有難う、を示すようにウィンクを返した。
「…じゃ、俺達はそろそろ行くよ。またね、シンデレラちゃん。」
「わざわざ、気ィ遣わせて悪かったな。また。」
「はい、また。」
再会を意味する挨拶を交わして、個室から出ていく2人を見送る。
わざと、十分以上の時間を空けてから自分も店から出た。
こうやって、それなりに神経を使って動いたんだ。
及川徹と会っていた事が店の人間以外に漏れている筈はない。
そう、思い込んでいた。