第2章 オーディション
当の社長は椅子の背凭れに完全に寄り掛かり、頭の後ろで腕を組んでいる。
もう少し落ち着きがある行動は取れないんだろうか。
力ちゃんも、よくこの人の下で仕事出来るな。
この契約書にサインしたら、私もこの人の下で働くのか。
なんか、嫌だ。
サインをしようとペンを掴んでいた手が止まる。
「…ブスが理由でフラれたから見返したい。」
迷っていた私の耳に入る社長の声。
内容は、私の志望動機。
「シンデレラ企画にピッタリじゃね?地味な灰被り姫が、1年で綺麗になんの。
もしかして、本当に王子様が現れちゃったりしてー。」
言い回しはふざけている。
だけど、目は真剣だ。
そんな顔をされても、この人は不真面目そうだし、信用は出来ない。
でも、曲がりなりにも社長である。
この、ヒット番組を作り出した彼に。
私は選ばれたんだ。
1年間で自分を変える為の手段を手に入れたんだ。
志望動機を思い出した事で決心して、持っていたペンを動かした。