第2章 オーディション
社長は私に向き直る事なく、自分の席に戻る。
ガサガサと乱雑に、机に並べられていた資料を荒らし始めた。
「…えーっと、大熊りこ。」
私が送っていた応募書類だろうか。
それを見て、社長は初めて私の名前を呼んだ。
手招きしている姿に呼ばれて目の前に立つ。
「ほれ、契約書。読んだらサインな。」
私に向けて差し出された紙。
細かい字で、契約内容が書かれている。
それを受け取り目を通していると、さっきの力ちゃんが戻ってきた。
社長の隣に座って、机の上に散らかされた書類を綺麗に纏めているのが視界の端に映っている。
この人は、私が1年シンデレラになるの、反対してたんじゃなかったか。
契約書、読むの止めたりしないのは何でだろう。
気になる事はあれど、契約書を読み逃して痛い目に合うのは嫌だから、黙ったまま読み進める。
最後まで読むと、それを示すように契約書を机に下ろした。
「じゃあ、これにサインお願いします。」
「…え、と?貴方、反対してたんじゃ…。」
ペンを渡してきた力ちゃんの方を見る。
盛大な溜め息を吐いていた。
「…俺は、別に君だから反対って訳じゃないよ。ただ、この社長が、独断で、決めるから、怒っているだけ。」
横の社長に精一杯嫌味を言っているようだけど、本人には通用していなようだった。