第9章 トレーナーと管理士
もう一周回ってきたのか、とか。
この速さで走ってきて殆ど息が乱れてないなんて化け物か、とか。
言いたい事は多々あっても、声にはならない。
喉が乾きすぎて、喋る事が出来ない。
「木兎さん、タレントに傷付けたらどうするんですか?流石に怒られますよ。」
自転車を置いて芝生の方まで来た京治くんは低い声を出している。
「だってよー。りこが遅すぎんだもん。」
「だって、じゃありません。子どもみたいな事をしないでくれますか。」
「ちょっと押したくれーで、転けるとか思わねーだろ?」
「さっきの、りこさんの状態だったら転びます。アンタが押す前からフラフラだったじゃないスか。」
怒られる、じゃなくて、怒っている、が正解じゃなかろうか。
酸欠なのか頭がクラクラとして、そんな突っ込みすら出来ない。
視界がぼやけて、2人の声が遠くなっていっている気がした。
中々止まない2人の話。
それを聞きながら、意識を完全に手放した。