第8章 モデルのお仕事
ポーズをどうたら指示されても、視線を求められても、何をどうすれば良いのか分からなくて。
素人だから仕方ない、って思って貰えるレベルを遥かに越えてるのは予想が出来る。
だって、皆が皆して溜め息を吐いている。
それが終わり、今度はさっきの灰羽さんが居た場所に移動する。
セットの中に、椅子が用意されていて、そこに座らされて、靴を脱がされた。
意味が分からないでいると、私の足の前に膝を付いている灰羽さん。
その手には、透明なハイヒール。
これ、シンデレラのワンシーンかな。
ガラスの靴がピッタリ合う、ってやつ。
まぁ、本当にガラス製の靴ではないし、履かせるフリをしているだけのようだけど。
それを、私の背面側から撮影されている。
灰羽さんの視線は、私の顔じゃなくカメラを見ているようだ。
後ろから撮られている私は、どこを見ておけば良いんだろうか。
自分の足元か、灰羽さんなんだろうけど。
「俺の顔、見て。」
誰か指示をくれないものか、視線を迷わせていると聞こえた小さな声。
頷きを返して、目の前の人に視線を向けた。
その顔は真剣そのもので、初対面の時のような軽さは無くて。
プロの世界の恐ろしさを知った。