第38章 関係を変える嘘
お互いに黙っている静かな空間の中、何かを漁るような衣擦れの音がする。
その元を辿ると、一さんのポケットから小さな箱が取り出された。
「迷惑なんかじゃ、ねぇよ。」
私の手の上に乗せられた箱。
今の話の内容からも、形状からも、何が入っているかは分かって。
言葉は無くても視線で答えを求められているのも分かる。
「…いいの?私生活でも警備員する事になるよ?」
返せたのは、返事じゃなくて確認。
構わないと示すように一さんが頷いた。
「俺は、気軽にホイホイとウチに来いとか、言わねぇよ。ずっと前から考えて、覚悟は決めてんだ。」
「…ずっと前から?」
「お前が嘘つきだった頃からな。」
真剣な顔をして、こんな事を言われると疑う気は起きない。
何で、嘘つきだった私で良いと思ってくれているのかは謎だけど。
「お前は危なっかしい女だからよ。嘘だって分かってても心配でたまんなかったんだぜ?
その頃から、お前を、大熊りこを、自分の手元に置いときてぇって思ってた。目の届く範囲に居りゃあ、本当に何か起きた時は絶対に護ってやれんべ?」
その理由は、誠実な彼の口から語られた。
私は、嘘つきだった時点で不誠実な人間に成り下がっているのに。
そんな私を受け入れて、覚悟を決めてくれたんだ。
「一さん。ずっと私の傍に居て、一生私の事を護って下さい。」
それなら、私も覚悟を決める。
この誠実な男から離れない覚悟。
私の嘘は、曖昧だった関係を本物にしてくれた。
その上、恋人の先に進むきっかけになっていた。
嘘は、決して良いものではないし、正当化するつもりはない。
でも、私達の関係を2回も変えてくれた嘘を悪いものだったとは、思いたくはなかった。
‐end.‐