第38章 関係を変える嘘
話の最中、一さんの眉間には常に皺が寄っている。
一瞬ですら緩む事はなく、話が終わった途端にその怒りは爆発した。
「テメェ!何でソレ黙ってたんだよ?」
怒鳴られてしまうと萎縮して言い訳すら出来ない。
私が黙っているのが、更に気を悪くしたみたいで舌打ちの音が聞こえる。
だけど、それ以上は怒られなかった。
「…荷物纏めろ。」
数分して、落ち着きを取り戻してきたような声がする。
意味が分からなくて、疑問を示す為に首を傾けた。
「テメェは、ストーカーにバレてる家に住み続けてぇってのか?」
「そんな事は…。」
「じゃあ、早くしろ。」
一さんの言う事は変な事じゃない。
普通なら、ストーカーされて家がバレていると気付いた時点で家に居たくないと思う筈。
現に、私も引っ越しは考えていた。
あくまで、賃貸の更新時期が近いから、それに合わせて引っ越そうかな程度のものだったけど、その相談は一さんにもしていた。
でも…。
「いきなり過ぎて、引っ越せって言われても行き先がないんだけど…?」
問題は、これだ。
ホテルとかで過ごしながら、家を探すなんて余裕はない。
どうするつもりか訊ねるように言葉尻を上げた。
「俺んトコに来りゃあ良いべ?引っ越し先なんざ、探さなくても良いだろ?」
さも当然かのような答えが返る。
深く考えなくても、一緒に暮らそうと言われているのは流石に分かった。
だけど、こんな形で仕方無く一緒に暮らすなんて申し訳ない気がして首を振る。
「…あ?何で嫌なんだよ?」
「嫌なんじゃなくて、悪いなって思って…。」
「何が悪ぃんだよ?」
「私が危ない目に遭いやすいからって、そこまで迷惑掛けたくないよ。」
これは、本心。
一さんは、私の騎士様で護ってくれる存在だけど。
一緒に暮らすって事は、毎日を私と過ごすって事。
一さん自身の私生活の殆どを犠牲にして欲しくは無かった。