第38章 関係を変える嘘
撒いたって、この人だったか。
一人で納得している内に、岩泉さんが及川さんの頭を掴んでいる。
「何でついて来てんだよ。とっとと帰れ!」
「痛いって、岩ちゃん!アイドルの顔に傷付ける気?」
「テメェが望むなら、ボコボコにしてやんよ!」
そして、そのまま言い合いが始まってしまった。
「ここでやり合うのは止めて下さい!…取り敢えず、及川さんも中にどうぞ。」
玄関前で騒がれると、周りに迷惑が掛かってしまいそうだから止める。
舌打ちの音が聞こえて、及川さんの頭から手が離れた。
機嫌の悪そうな顔のまま、奥の部屋に入っていく岩泉さん。
それを追おうとした時、手が掴まれて。
「怖い目に遭ったクセに、随分と落ち着いてるんだね、りこちゃん。」
耳元で、ゾッとするような低い声が聞こえた。
この人、私が嘘を吐いて岩泉さんを呼び出した事に気付いてる。
もしかして、ここまでついて来たのは、私の嘘をバラすのが目的?
どうにか止めようと振り返る。
及川さんは、読めないヘラヘラとした笑顔を浮かべていた。
「及川さんは、恋する乙女の味方だから安心して。君が嘘つきだなんて言う気ないよ。
だけど、岩ちゃんはすでに気付いてるかもね?俺の幼馴染みは、そこまで鈍感じゃないから。」
妖しい笑みを濃くした及川さんが、私を追い抜いて部屋の中へ。
固まってしまって、すぐには動けず、数分遅れて私も部屋に戻ろうとした。