第36章 ドラマみたいに…(月島エンディング)
忘れられない言葉がある。
思い出すだけで涙が出そうなくらい、辛い記憶がある。
私がシンデレラに応募した年の仕事初めの日。
年始挨拶回りをした時の事だった。
私が担当していた営業マンの彼の車で移動の最中、つい口から出た言葉が引き金だった。
『月島さんって、整った顔してますよね。』
『…それが、何か?別に顔で仕事取ってきてる訳じゃないんで。大体、話する相手、殆ど男デショ。』
『それは、分かってますけど。いくら補佐とはいえ、私みたいなの連れ歩いてるの、勿体無いくらいだなって…思いまして。』
凄く、不機嫌な顔をされた事も鮮明に覚えている。
自分を卑下する形で、単に褒めた事を伝えようとしただけなのに…。
『君の家、鏡あるの?』
最大級の暴言が降ってきた。
月島さんみたいな方からしたら、私なんて下の下である事くらい分かってたけど。
ショックを受けて、喋る事が出来なくなった。
お客様の前では何とか笑って、最後の会社まで挨拶回りを終えた時…。
『…月島さん。鏡も見た事もないようなブスに言われても迷惑でしょうけど…。
私、月島さんが好きでした。だから、さっきのはちょっとショックでした。
…ごめんなさい。先に戻ります。』
もう同じ車の中になんて居たくなくて、言い逃げしてタクシーで会社に帰った。
だから、実際に言葉としてブスとは言われてない。
付き合って欲しいって申し込みをした訳じゃないから、はっきりフラれてはいない。
でも、あんな事を言われた後だから告白したって返事は分かってた。
気まずくはなっても、元々社内で雑談する間柄じゃなかったから、業務的な会話だけで数ヶ月は過ごして、私はシンデレラになる為に会社を辞めた。
これを、意訳すると‘ブスを理由にフラれた’となる。
ちょっと、まぁ、大袈裟にしてしまった感はあるけど、お陰でシンデレラをやる事が出来たんだから、後悔はしてなかった。