第35章 私の騎士様(岩泉エンディング)
それから少しして、迎えに来た岩泉さんはまさかの車で。
移動中から、2人になってしまう密室は辛い。
ガチガチに固まって、会話も出来ないまま、車は進んでいく。
「…おい。」
「…へっ?ひゃっ…はいっ!」
視線を向けるのすら恥ずかしく、外を眺めていると聞こえた低い声。
少し怒っている感じがして、恐る恐る目を向けた。
「そんな嫌なら、帰るか?」
思った通り、不機嫌そうに眉間に皺を深く刻んだ顔。
嫌ではない。
勝手に岩泉さんを意識して、恥ずかしくて、気まずいだけだ。
でも、それを説明出来る語彙力は私には無いし。
こんな事を言ったら、告白みたいで困らせるだけ。
何も言えなくて俯くと、膝に落ちる雫。
泣いてしまったら、それこそ困らせるのが分かったから、必死で目元を擦る。
でも、そんな事をしても手遅れで。
「…気付かなくて、悪かった。帰るか。」
大きな溜め息の後、車はUターンさせられた。
近付いてくるマンション。
そこに着いて車から降りたら、多分2度と連絡すら取れなくなる。
それは、嫌だ。
「…次の信号、曲がって下さい。」
「…あ?何でだよ?お前ん家は真っ直ぐだろーが。」
「良いから、曲がって。遠回り、して欲しいんです。」
少しでも長く、時間を引き延ばしたい。
我が儘な事を言っているのは分かっているけど、岩泉さんは受け入れてくれた。
マンションへの道じゃない、別の通りに出る。
希望した遠回りをしてくれているけど、考えは纏まらず。
引き延ばした時間を、どう使えば良いか分からなくて、また涙が浮かんできた。