第35章 私の騎士様(岩泉エンディング)
周りからの目は厳しくても、直接的な被害は今のところない。
寧ろ、事故とかあれば警察にでも相談しやすくなるから、そっちの方が…。
「…危ねぇっ!」
外を歩いているのに、考え事をして、油断をしていた。
聞き覚えがある大きな声にビクついて、足を止めると頭に当たった硬い何か。
確かめるように手を伸ばすと、ドロりとした感触。
指先に絡んだのは、透明の中に黄色いものが混ざっている液体。
足元に落ちた、私に当たった筈のものを確認すると…。
「…卵?」
「それ以外の何に見えんだよ。」
目に映った、見慣れた白い殻。
そのまま口に出すと、呆れた声が聞こえて、そちらを向く。
隣に立っていたのは、さっきの大きな声の主、岩泉さんだった。
「てめぇは、毎回そうだが、周りをよく見て歩け!ったく、俺の前で危ない目に遭ったの、何回目だと思ってんだ?」
怒ったみたいに話し掛けられて、何も言い返せない。
怖いからじゃなくて、事実だから。
深い溜め息が聞こえてきたと思ったら、次には髪を摘むような感触。
頭に残った、細かい殻の欠片を取り除いてくれている。
「手、汚れますからっ…。私が自分で取ります。」
「あ?汚れたら、洗やぁいいべ?気にすんな。」
申し訳なくて制止したけど止めてくれなかった。
理由はどうであれ、男の人に髪を触られている事実は気恥ずかしくて下を向く。
やっと欠片が無くなったのか、手が離れていった時、タイミングよく岩泉さんのスマホが音を立てた。
「…岩泉だ。…あぁ、そうか。ちょい待て。」
何か話していたと思えば、スマホを耳から離して私を見る。
「コレの犯人、捕まえたってよ。どうする?連れて来させるか?」
どうやら、さっきまで誰かと一緒に居たみたいで、そのもう1人が私に卵を投げ付けた犯人を捕まえたらしい。
会ってみる勇気は無くて首を振って答えた。