第34章 何より美味なもの(赤葦エンディング)
案内された席で、開いたメニューを手渡される。
「好きなもの頼んで下さい。」
「食べたくない。」
「良いから、食べて下さい。」
拒否をしても、思った以上の強引さで迫られて。
軽めのものなら、と思ってサンドイッチを頼んだ。
それが運ばれてくると、漂うパンとかマヨネーズの匂い。
食欲が、何故か湧いてきて食べる事が出来た。
「…美味しかった。」
しかも、ちゃんと味を感じた。
京治くんは、そんな私を眺めて。
「…空腹は最高のスパイスって言いますけど、それ以外にも料理を美味しく感じる方法があるんです。」
笑うように、唇の端を上げている。
「それは、好きな人と一緒に食べる事。」
続いた言葉が頭に響いて、意味を理解してしまうと顔に血が集中した。
いやいやいや、京治くんが好きなら、嫌われたいとか思わないでしょ。
そんなの、有り得ない。
頭の中で否定しても声に出す事が出来なくて、口を何度も開閉する。
「因みに、俺はりこさんが好きなので、一緒に食事が出来ると美味しく感じてますよ。」
「…嘘だ。」
更に言葉が重ねられても、信じる事は出来なかった。
つい、口から疑う気持ちを吐き出すと、ピクりと眉を動かしたのが見える。
「俺、アンタの為に栄養学を専攻したって話しましたよね。昔から、りこさんが美味しそうに食事をする姿を見るのが好きだったんです。
でも、毎年夏頃になるとダイエットだって食べなくなる時期あったじゃないですか。それを、止めて欲しかったから、食べても綺麗に痩せられる方法を提供したかったんです。」
伝えていた筈だとばかりに、淡々と言葉が並んでいく。
少々早口で言われて、理解するまでに時間が掛かった。