第34章 何より美味なもの(赤葦エンディング)
数分して戻った京治くんが私の前に置いた茶碗。
中には、白く濁った液体が入っていた。
「重湯です。断食していたようなので、回復食になります。」
「重湯って何?」
渡されたスプーンで汁を掬うと、糊みたいな滑りがあって口に入れて良いものである気がしない。
「お粥の上澄みですね。よく噛んで下さい。」
食べられる物であるのは分かったけど、これをどうやって噛めば良いのやら。
でも、食べないと帰ってくれなさそうだったので、口に入れてみる。
塩気も何もない、本当にただの上澄み。
だけど、京治くんが安心したみたいに笑ってくれたから、とても美味しく感じた。
「美味しかった…です。」
粘りのある水分でしかない茶碗一杯のそれを時間を掛けて完食する。
口から思わず感想が零れた。
「味のない水ばかり口にしていたから、舌が米の甘味に敏感なんですよ。
残りとお粥は冷凍してますんで、明日の朝と昼は電子レンジで解凍して重湯を。夜はお粥を。出来れば塩等々の調味料は加えないで食べて下さい。
くれぐれも、量には気を付けて。よく噛む事が大事です。」
説明をしながら、ノートに書き込んでいる。
そのノートは置いていくと示すようにテーブルに放置された。
「明後日以降の回復食も、メールします。アンタが不健康になんのは許せないんで。」
「なんで、そこまでしてくれるの?」
帰ろうとする京治くんを見送りに来た玄関。
そんなに怒っていないと分かれば怖くは無いから、素直に疑問を向けた。
「…俺、りこさんの為に栄養学を専攻してたんですよ。ダイエットなら、幾らでも付き合います。」
「いや、これ以上は痩せない方が良いんじゃ…。」
「ダイエットって、本来は健康の為にする食事制限の事ですよ。」
最後には、バカにされたような気がしてイラッとする。
その所為で、意味深な言葉を置いていかれた事には気付いていなかった。