第34章 何より美味なもの(赤葦エンディング)
テーブルの上に、どこから取り出したのかは分からないノートとペンが置かれる。
「俺の家から出てから今日まで、覚えてる限りで良いので食事の内容を書いて下さい。」
拒否を許さない強い口調で言うと、京治くんはキッチンの方に入っていった。
仕方なく、思い出しながら食事の内容を書こうとしたけど。
ここ何日かは、口に物を入れるのすら諦めて水くらいしか摂ってない。
そんなの書いたら、どれだけ怒られるんだろう。
でも、嘘を書いたらバレるのは目に見えていた。
「…書けました?」
どうしようか迷っている内に、京治くんが戻ってきてノートを覗く。
2日分程しか書いてないのを見て、大きな溜め息を吐いた。
「こんなに前の日のメニューを覚えてて、ここ1週間のメニューは思い出せないんですか?」
かなり馬鹿にしたような、冷たい視線が向いている。
「…思い出せないんじゃない。…食べてないから、書けない。」
耐えられなくて、言葉を震える唇で紡いだ。
また、溜め息が聞こえて、今度こそ完全に怒られる覚悟をする。
「…食べてない?」
「うん。」
「本当に、何も?」
「水くらいなら、飲んでた。」
思ったより強い言葉は無くて、ただ確認するような質問があっただけ。
何かを考えてるみたいに、京治くんの視線が動いていたけど、何も読めなかった。
会話の無いまま、少しの時間が経過して、キッチンの方からピーッという電子音が聞こえる。
自分の家の物だから分かるけど、炊飯器の音だ。
「少し、待っていて下さい。」
その言葉を置いて、京治くんは再びキッチンの方へと消えた。