第34章 何より美味なもの(赤葦エンディング)
人と生活をする事に慣れてしまっていた私には、落ち着く筈の自宅が落ち着かず。
何かをしていないとソワソワしてしまうから、取り合えずご飯を作る。
今日からは、好きなものを好きな味付けで食べて良い筈なのに、美味しいとは思えなくて半分も入らなかった。
バランスの整った、健康的な食事に慣れてしまったから、油分とか味の濃いものとか駄目になったかな、とか思って。
翌日は、京治くんに教わったレシピの物を作ってみたけど、結果は同じで。
殆ど食べられないまま、数日を過ごした。
お陰で肌は荒れるし、ジムにも行かなくなったから筋肉も徐々に落ちていく。
醜く変化していく自分が分かってしまうと、京治くんの所に荷物を取りになんか行けなくて。
また迷惑掛けるのを分かっていたけど、着払いで送って貰えるように連絡した。
それには、了解の返事があったから安心する。
連絡を取りたくない程、嫌われていたら、どうしようかと思った。
その連絡をした日の夜。
インターフォンの音が鳴る。
即日配達の宅配便とか、高いの使われたかな。
かなり痛い出費になりそうだ。
溜め息混じりに玄関の扉を開けると、そこには京治くんが立っていた。
「…荷物、持ってきましたよ。」
「あ、あぁ、うん。有難う。」
差し出された鞄を受け取ろうと手を伸ばす。
だけど、鞄は渡して貰えず、手首を掴まれて。
「…アンタ、無茶な食事制限してますね?」
爪が肌に食い込んで、痛いくらいの力が込められた。
制限をしたかった訳じゃない。
何故か、食べる事が出来なくなったんだ。
そう言いたいのに、声は出ない。
私を見る眼が怒っているような気がして首を振る。
それでも離してはくれないどころか、部屋の中に入ってきて、私をテーブルの傍まで引き摺った。