第29章 魔法が解ける時
楽屋に戻ると、テーブルの上に1つの花束。
メッセージカードが付いていて、会社員時代に見ていた見慣れた文字で、最後まで頑張れ、と短い文章。
送り主が誰かは名前を確認せずとも分かっている。
お礼を言いたくて、その人に電話を掛けた。
『…はい、澤村です。』
「こんばんは、澤村さん。今、お時間大丈夫ですか?」
『あぁ。大丈夫だ。どうかしたのか?』
「お花、有難う御座います。最後まで頑張りますね。」
『あぁ、頑張れ。』
澤村さんの声は、勇気をくれる。
最初から最後まで、こうやって応援してくれるのは有難い。
お礼だけ言って、すぐに電話を切るのは悪い気がしたし、もう少し雑談くらいしたかったけど、生憎と時間がなかった。
「本当に、有難う御座います。すみません、時間がないので失礼します。」
『…そうか。番組、見てるからな。』
「はい。有難う御座います。」
何度も何度も、お礼を言ってから電話を切る。
澤村さんが、応援以外にも何か言おうとしていた事なんか気付かなかった。
通話を終えたスマホを鞄に戻す。
その時に、タイミングよくスタッフが扉をノックして開いた。
撮影の準備完了の知らせ。
シンデレラとしての、最後の仕事。
生放送の撮影が、始まった。