第29章 魔法が解ける時
始めに1年間の、私の活動を纏めたVTRが流れる。
それが終わると、ゲストの方々から共演した時の感想だとかを頂いて、少しのトーク。
これが最後だと思うと、名残惜しいのもあって、泣きそうで何度も声が詰まる。
それでも、一生懸命喋ってる感を出すのが私の役目。
涙を堪えて、話をしている内に時間が過ぎて、決断の時がやってくる。
セットの中央に立ち、ここからは私の独り舞台。
1年間の思い出を少しだけ話しながら、残り時間を眺めている。
時間はどんどん過ぎて、後数分になった頃…。
まだ決めていない事、でも今答えを出さなきゃならない事を、口に出そうと決める。
「今現在でも、私は芸能界に残るか、残らないか迷っています。」
考える事が出来る人間だからこそ、悩むのだから恥ずかしくはない。
声に出した事で吹っ切れた気がした。
「シンデレラにならなければ経験出来ない事や、出会えなかった人達。これは、私がどちらを選んでも、一生の宝物です。
この華やかな世界で、まだ頑張ってみたい。
だけど、私の容姿で生き残れる甘い世界じゃないのも分かってて。
やっぱり普通の暮らしに戻ってしまった方が苦労はしないと思ったりしてるんです。」
少しでも引き伸ばそうとしたけど、それも時間の都合で、無理なようだ。
残り時間、後1分。
シンデレラの魔法が解ける12時が、そこまで近付いている。
落ち着こうと深呼吸をして、答えを決めた。
「私はー…。」
私の答えを吐き出した時、12時にセットされていた鐘が鳴る。
魔法が解けて、セットの中から去る私を皆は拍手で見送ってくれた。
これからは、魔法がない世界で生きる。
それでも、最後の最後、自分で選んだ答えを、私は絶対に後悔しない。
シンデレラじゃなくなった私が生きる道。
胸を張って、歩いて行くと決めた。