第27章 今度は選ぶ側
縁下さんが、怒っているのが分かる。
なんか、もう、雰囲気全体が怖いから。
「大熊さん、申し訳ないけど、今日は帰らせて貰うから。」
「あぁ、はい。じゃあ、また。」
社長の背中を押しながら、さっさと家を出ようとしている縁下さん。
対して、社長は納得出来ないみたいで玄関まで連れて来られても靴を履こうとしない。
「え、ちょっ!オフの日に仕事させたんだから、ギャラ代わりに飯くらい…。」
縁下さんは、最後まで粘っている社長を、ただじっと見ていた。
「力ちゃん、顔が怖ぇよ!分かった!分かりましたー!」
それで、ようやく縁下さんの怒り具合に気付いたのか、慌てて靴を履く社長。
「今日のも、仕事だから。ちゃんと給料に付けておくよ。いきなり、お邪魔して悪かったね。」
「あ、いえ。どうせ暇でしたから、お給料なんて…。」
「駄目。この世界は、信用が大切だから、仕事分は受け取らないと。」
「分かりました。じゃあ、今日の分も頂きます。」
社長に続いて靴を履く縁下さんと少しの会話をする。
「じゃ、またな!大熊りこ!」
「戸締まりには気を付けてね。また。」
玄関の、扉の外に出た2人。
「はい、また。」
この場で長々と話をするのは、近所迷惑だから簡潔に挨拶をして見送った。