第5章 タクシー
勿論、偶々乗っただけの客が次のワンデレラだなんて知っている訳もなく。
悪気はないのは分かっているけど、今は一番言ってはいけない言葉を出している。
「あ、あの番組!私、毎回楽しみにしてるんですよ。」
一か八か。
その話にノって月島さんの質問を無かったように振る舞った。
「そうですか。いや、私ね、あの番組をやってる社長とは知り合いで。」
「あぁ、そうなんですか。凄いですね。芸能事務所の社長と知り合いなん…て?」
月島さんがいないかのように、ドライバーさんと会話を続けようとする。
だけど、ヤバい方向に話がいってしまいそうな予感がして、声が上擦った。
「あの社長、結構な酒飲みで。秘書の方にも飲ませるから、タクシーをよくご利用になるんですよ。」
あぁ、それぐらいなら大丈夫か。
地味な女をワンデレラに選んだなんて話、聞いていて、それを言われたらどうしようかと思った。
月島さん、勘が良さそうだから小さなきっかけでバレそうだし。
「そうなんですか。お酒も楽しい事の内、って事ですね。」
安堵の息を小さく吐いて、ドライバーさんとの会話を再開した。