第5章 タクシー
タクシーなんて、狭い空間の中に2人きりとか、辛すぎる。
いや、ドライバーさんいるから厳密には2人きりじゃないけど。
この状況は、厳しい。
なるべく隣を気にしないように窓の外を眺めていた。
「…ねぇ。」
「何ですか?」
月島さんは、会話をする気がゼロな訳じゃないらしい。
後ろから聞こえた声に、声だけで反応を返す。
「シンデレラ、って、何?」
次いだ声は、嘲るような、嫌味を感じる音だった。
なんで、知ってるんだ。
あ、さっき、澤村さん…。
酔ってたからもあるだろうし、あの人は純粋に応援しようとしてくれていただけだろうけど。
月島さんに知られるのは、マズすぎる。
下手に肯定するような事を言ったら、馬鹿にされるのは分かりきっていた。
上手い誤魔化しが出来そうになくて、黙ったまま聞くのを諦めてくれるのを待つ。
「シンデレラですか。あぁ、お客さん、1年シンデレラって番組知ってます?」
私が困っているのに気付いたんだろう。
ドライバーさんが、助け船のように話し掛けてくれた。