第24章 代理
何で、岩泉さんがこんな所に居るんだろう。
それを問い掛ける前に、岩泉さんは信号用のボタンを押して、青に変わった歩道を渡っていた。
「…早く来い。置いてかれてぇのか?」
動かない私を振り返り、また眉間の皺を深めている。
これ以上、怒らせるのはマズい気がして、慌てて後を追った。
横に並んで歩いているのに、会話はナシ。
駅に着いて、ここで別れるのかと思ったけど同じ電車に乗っている。
それでも、会話ゼロ状態は続いた。
「…あの。岩泉さん?」
「…あ?」
ずっと無言は気まずくて、声を掛けてみたけど機嫌は悪そうだ。
「どうして、同じ電車に?岩泉さんも帰り道、こっちなんですか?」
それでも、黙る事は出来なくて気になっていた事を問い掛けた。
すると、舌打ちを返されて、聞かなきゃ良かったと後悔する。
どうせ会話は続かないだろうし、気を逸らそうと取り出したスマホ。
それにはメッセージが入っていた。
内容は、代理で寄越したのは岩泉さん、との事。
それを読んで申し訳ない気持ちになり、頭を下げる。
「…岩泉さん。なんか、すみません。」
「謝んじゃねぇよ。悪ィのは、用事優先して仕事全うしてねぇアイツだろうが。」
ようやく、状況を理解したのが伝わったのか、岩泉さんがふっと顔を緩めて笑った。