第21章 ドッキリ
仕掛けを直しに行ったスタッフが戻ってきてから数分後。
無線のようなものに連絡が入って周りが緊張し始める。
皆の視線が向いているモニターに映し出されているテレビ局の出入り口。
「今度は大熊さんが仕掛け人サイドだから。これ、持って。」
モニターを眺めながら、縁下さんから渡されたのは、ドッキリ大成功プラカード。
何も聞いてないから、何をすれば良いか分からない。
「お前が何も聞かねぇのが悪いんだろーが。挙げ句、仕掛け人の筈が自分で引っ掛かるとか、面白すぎだろ。」
社長達が、楽屋から帰ろうとするまでに話していたのは、この事だったか。
あの仕掛けが私用じゃなかったなら、怒るのはお門違い。
これからは、ちゃんと話だけは聞こうと反省した。
そうこうしている内に、出入り口から出てきた人影。
さっきの収録で司会をしていた芸人さんだった。
マネージャーらしき人と会話をしていて、階段の異変には気付いていないようだ。
そして、板に足を掛ける。
当たり前だけど、柔なそれは私の時のように簡単に割けて、転んでいた。
その時、背中を押されて、カメラを持ったスタッフと共に出入り口の前まで出る。
私の持っているプラカードに反応して、やられた、なんて言いながらも笑っている芸人さん。
その後、一言コメントを求めて、撮影は終了した。
カメラを止めた途端に、芸人さんは肘とか、ちょっと怪我した部分を気にしている。
撮影中はそんなもの一切していない素振りだったのに。
この人もプロで。
さっきの収録でも、自分が求められているものに従って、私をイジっただけなのだと分かった。
私が、この世界で求められているイメージは…。
地味な女でも変われる証明である事。
芸能人らしくない、限りなく普通で、輝いてすらいない女である事。
だから、色んな表情があっていい。
綺麗な顔ばかり、見せていても意味がない。
それを、教えてくれたドッキリ番組だった。