第21章 ドッキリ
緊張しすぎたり、疲れたりすると記憶を無くす。
それは、この世界に入ってから度々やってしまっている事。
実は、大抵の事は失態を思い出したくないだけで、本気で忘れている訳じゃない。
だから、思い出そうと思えば思い出せる。
…だけど、これだけは本当に、打ち合わせだとかした覚えがない。
そんな、光景が目の前に広がる午前5時半。
旅番組の収録だと言われ、前泊していたホテル。
寝ていたベッドの上には、クラッカーから散った紙吹雪。
目の前には、有名な芸人さんとカメラマン。
もしかして、これは…。
寝起きでも、何とか回転してくれた頭の中。
予想を肯定するように見せられたプラカードには、ドッキリ大成功、の文字。
こういうの、本当に何も知らされずにやるものなんだ、なんて。
妙に冷静になっていた。
…そんな、映像を流された直後の収録現場。
そうです、さっきのは数日前に撮影された寝起きドッキリのシーンです。
それについてのコメントを求めるように、話を振ってくる司会者。
「私、一般人だった頃は寝起きドッキリって信じてなかったんですよ。本当は打ち合わせした上でやってるんだろう、って。
でも、本当に何の話もなかったので。実はこの後、カメラが本物か疑っちゃったんですよ。」
笑いながら、こういうコメントをすらすらと言える。
緊張をしないで済む程度には、芸能界というものに慣れてきていた。