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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第5章 フォトジェニックな彼ら


 だから大丈夫、とまっすぐ瞳を見つめれば、ようやく牛島は臨戦態勢を解く。彼の放つ気が幾分か和らいだことを感じ取り、ほっと朔弥も肩の力を抜いたとき、あー! と突然近くで声が上がり、びくっとその発生源に振り向く。
「思い出した、白鳥沢のウシワカ!」
 集団の中で一際騒がしかった件の男が、やや興奮気味に牛島を指差す。
「若利のこと、知ってるんですか?」
「俺、中学ん時バレー部でさ。三年の時にスゲエ一年が現れたって話題になってた。今、高三? ってかデカくなったな!」
 まるで久方振りに再会した遠戚のような親しさで距離を縮めてきた彼を見て、自分たちのチームメイトに良く似た雰囲気の奴がいたな、と牛島と朔弥は同時に顔を見合わせた。
「ああ、バレー。そうか、じゃあこっちは青鷺の紀伊朔弥、か」
「俺のことまで!」
 どうして知っているんですか、と目を丸くした朔弥に、腕を組んで成り行きを遠巻きに見ていたリーダー格の男が目を向けた。
「やたら目立ってたからな。何年か前の京都代表決定戦だったか、あの伝説のゲームを見たぜ」
「伝説?」
「あれは……いや、あまり思い出したくないからごめん若利そんな顔でこっち見ないで。ていうか、よく知ってましたね」
「こう見えて実はこいつも同じ中学の熱心なバレー部員だったんだぜー」
 な! となぜか自慢げに肩を組んできた馴れ馴れしい腕を邪険に払い除けた彼は、面白いことを思いついたと笑みを浮かべた。
「お前ら二人か?」
「? そうですけど」
「こっちとそっちで合わせて丁度十二人。バレーの経験者は俺たち四人だけで、あとは体育の授業でやったことがあるとかないとか、そんなレベルの素人だ」
 ピン、とこの話の意図を汲んだ朔弥が、ちらりと隣に立つ牛島の顔を見る。彼も相手がなにを言いたいのか気づいたようだった。
「随分と回りくどい言い方だが、つまり、俺たちと試合がしたいということか」
「わあ、かなり端折ったね若利」
「はははっ物怖じしないなー、さすが東北のウシワカ、肝が座ってるう!」
 口笛でも吹きそうな天童似の彼の後ろから、バレーやんの? 俺ルール知らねえ、三回以内に返すんだって、てかネット高くね? というゲームをするにあたって不安を誘う数々の声が上がり、まずはバレー教室から始めるかな、と経験者たちは溜息を吐いた。
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