• テキストサイズ

【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第5章 フォトジェニックな彼ら


 きみらってやっぱマジで強えーのな、とからりと笑って汗を拭い、遅ればせながら俺の名前は小塚健斗、と天童似の茶髪がネットの向こうから右手を差し出す。紀伊朔弥です、とその手をしっかりと握り返して朔弥も笑う。隣では牛島が織田晃一と短く名乗った通称こーちゃんと握手を交わしていた。

 小一時間ほど初心者のための軽いバレー講座をしたのち、織田率いる赤チームと牛島率いる白チームとで3セット、試合形式でボールを打ち合った。間近で撃ち落とされるボールの威力に震え上がるビギナー達の姿に、少しは手加減しなよ、と朔弥は何度牛島に耳打ちしたことか。その度に不服そうながらも小さく頷いていた牛島だったが、しまいには、お前の上げたトスを手加減して打つなど、と開き直りすらし始めたことに、ネット越しの小塚が盛大に吹き出した。
 試合形式、と言ってもまずはラリーを続けることが第一の目標といったゲームは、レベルの高い試合形式の練習ばかり積んできた朔弥と牛島にとって新鮮で、そしてなんとも物足りなさを感じさせた。明日からまた始まる厳しい練習が待ち遠しい、とさえ思った二人は、不完全燃焼を起こして体内で燻る熱を宥めながら、僅かにだが確実に馴染み始めた新品の靴の紐を解いた。

「いやあ、楽しかったよー。久々にマジな汗かいたって感じ?」
「たしかにー! んで若いの二人はまだまだ足りねえって顔してるのがムカつくな!」
「若いの、って……三つしか変わらないじゃないですか」
 ぞろぞろと揃って体育館を出る一団に混ざって、朔弥たちも表へ出た。濃紺の夜空が、じわじわと夕焼け空を侵食している。これは急いで帰らなければ夕食を食いはぐれるかもしれない、と朔弥はスマートフォンを取り出す。とととっと手早くタップし、寮で寛いでいるであろうチームメイトへメッセージを飛ばす。少し遅れるかもしれないから、食堂のおばちゃんに声かけといて。送信した直後に既読のついたそのメッセージに、おっけー、今夜はカレーだヨ☆と天童から返信が返ってきた。
「ねえ朔弥ちゃん、連絡先教えてよー、また遊ぼ?」
「本気でナンパしてんじゃねぇぞコラ」
「……」
「織田さん暴力はちょっと、それとね若利、かお。顔、怖いから」
 恋人を諌めつつ、人との距離感が異様に近い小塚の腕をするりと躱した。
/ 54ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp