【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
こと自分のことに関わると狭量さを隠しもしないその態度に、しょうがないなあと少しの照れを噛み含んだ朔弥が牛島の陰に隠れようとしたその時、ぱしゃ、と無機質なシャッター音が響いた。
「記念にいちまーいゲット!」
「あ、ずりぃ。俺も俺もー」
「おいお前ら! マジでいい加減にしろ!」
「ちょっとちょっと、いきなり撮るのはシツレーでしょ!?」
織田と小塚が慌てて常識知らずの仲間たちを諌める。血相を変えた牛島のただならぬ気迫も相俟って、あたりを険悪な空気が漂う。和やかだった雰囲気を一気に凍らせてしまった原因の一端を担ってしまった、と朔弥が強張らせた表情を気合いでへらりと緩めた。
「あの、大丈夫ですよー……俺こう言ったらなんですが、こういうの割と慣れてるんで」
「そんなものに慣れなくて良い」
「わっ! 若利、ちょっ!」
朔弥の右肘を掴んで牛島が足早にその場を去る。引き摺られるように足を縺れさせながら、失礼します、と呆気にとられた集団に朔弥が律儀に声を投げる。あっという間に門を出て、そのままバス停へと向かって歩調を緩めない無言の恋人に、朔弥は唇を尖らせた。
「若利。わーかーとーしー」
「……」
「若利君。牛島さーん。……ウシワカちゃ」
「その呼び方は、」
「やめろって? ……もう、やっと反応した」
腕、血が止まりそうだから離して。朔弥がそう言うと僅かに牛島の左手の拘束力が落ちる。それでも完全に朔弥を解放する気はないのだろう、解けないその大きな左手に吹き掛けた朔弥の溜息が牛島の足を止めた。バス停はもう目の前だ。ぽつんと置かれたベンチに人の姿はない。微かな排気ガスの匂い。次のバスが来るまで時間がかかりそうだ、と少し前に走り去ったと思われるバスの背を追うように視線を移した朔弥の耳に、抑揚のない声が届いた。
「……よくあることなのか」
「なにが?」
あんなふうに勝手に写真を、と放った自分の発言に苛立ちを再燃させた牛島から広がる、どす黒い憎悪の羽。撮られた写真。それを誰に、何が目的で、どんなふうに、どんな目で——。
若利、と静かに窘める声。無意識の内に再び力の篭った手へ、そっと添えられた指。その声が、指先が、あまりにもその場にそぐわぬ柔らかさと温かさで。牛島は弾かれたように顔を上げた。