【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第5章 フォトジェニックな彼ら
コールドスプレーが欲しいな、と熱を持つ腕をふうふうと吹き冷ましていると扉の開く音がした。牛島が競技場を出てからまだ一分と経っていない。ああ、財布を取りに戻ったのかと振り返ると、そこにはボールを取りに行った相棒ではなく、見知らぬ男たちの姿があった。
「ほら見ろ、超空いてんじゃん」
「おー、俺初めてここ来たわ」
「俺も俺も! なんかすげー!」
ゾロゾロと中に入る彼らの足元はみんな揃いのレンタルシューズ。近くの大学に通う人たちかな、と容姿やチラチラと聞こえる会話から朔弥は推測する。それにしても大所帯だ、その数は十名。競技場の中の温度や湿度が一気に上がるような錯覚を起こさせる。
「で、なにするよ? 卓球? ミントン?」
「俺ビリヤードとかダーツの方が良かったなー」
「ラウワン激混みだったろ。お、ネット張ってある」
ガヤガヤと騒がしくこちらに近づく彼らは全員が初めてこの施設を利用するのか、ここのルールを知らないらしい。
「あのーすみません、こっちは使ってるんで、隣にネット張って貰っていいですか?」
器具庫に全部入ってますから、と指差す朔弥へ、一斉に視線が集まる。
(あ、なんだろう……首の後ろざわざわする)
初対面の人間との会話を躊躇するような性格でもないはずなのに、朔弥は突如湧き上がった警戒心にごくりと唾を嚥下した。
「ああ、ごめんなー。俺らここ来たの初めてでさー」
「なに、きみ一人でバレーやってんの?」
「バレーって一人でできたっけ?!」
「なあなあ、年下、だよな? 高校生? としいくつー?」
「ええと、あの、」
矢継ぎ早に話しかけられてどの発言から返事すれば良いのか狼狽える朔弥に、リーダー格の強面な男が救いの手を差し伸べた。
「おいおい、お前ぇら寄ってたかってビビらしてんじゃねーよ、……悪りぃな」
「あ、いえ」
大丈夫です、と笑いかければ洒落た顎髭の彼は少し目を見張った。
「……前にどっかで会ったか?」
「?」
「なーにそれ、ナンパの常套句かよこーちゃん!」
朔弥の前に立ってじっと見つめる彼のことをこーちゃん、と呼んだ茶髪のやや軽薄そうな男がケタケタと笑う。どれどれ、と朔弥の顔を無遠慮に見た彼の声が上擦った。
「ぅわ……こーちゃん、多分テレビとか雑誌で見たんじゃね? きみってモデルかなんか?!」
