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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第2章 君のボールに恋してる


「……主将、という立場に正直戸惑っている」
「戸惑う? なぜ、誰がどう考えたって俺たちの代のキャプテンは若利でしょ」
 ぱちくりと目を瞬かせる。意外な告白に、思わずマッサージをしていた手を止めてしまった朔弥は、まじまじと牛島の後頭部を見つめた。
 主将を決めるのは常に鷲匠監督の独断だが、先代の主将が引退すると同時にキャプテンマークを引き継いだ牛島のことを分不相応とは思わなかったし、意を唱える者もいなかったはずだ。
「このチームは、主砲である君の為のチームと言っても過言じゃない」
 事実、厳しい練習の中で常に監督はこの偉大な大エースの為にベストな布陣を模索し、牛島に対してはとにかく個の力を強化するようはっきりと公言している。東北の絶対王者の名の下に、彼が勇ましくチームを背負い立つ姿は想像が容易く、そして誇らしくもあった。
「そもそもね、君以外に一体誰がこのチームを引っ張れるというの」
「お前がいる」
 なんの迷いもなく即答された言葉に、一瞬呆気にとられた朔弥は、即座に我に返ると努めて明るい声でその意見を一蹴した。
「馬っ鹿だなあ若利、ベンチ入りさえできない俺がキャプテンになるなんて、ありえないでしょ! ほら、尻と背中もやるから、ちょっと乗るよー」
「……頼む」
 この会話の流れはマズいな、せっせと手を動かしながら、朔弥はほんの少し苦く表情を歪めた。

 高校一年の夏、セッターとしてコートに立った最後の日。春高前の練習試合だった、公式戦ですらない。そこで、直前の練習から試験的に試みていたツーセッターの片翼として抜擢された朔弥を、ネット際で力一杯弾き飛ばしたこと。彼は未だにそれを負い目に感じている節があった。
 あれは完全に朔弥のミスだ。ネットすれすれに落ちそうなボールを必死で追って拾おうとした、ダイレクトにアタックで向こう側にボールを返そうと迫っていた牛島に気付かずに――。

「……はい、とりあえずおしまい。あとは風呂の時、変に揉んだりするなよー」
 ぺし、と広い背中を叩き、よっこいしょなんて言いながら立ち上がる。牛島はうつ伏せのまま微動だにしない。若利? と声をかけると、怠慢な動きで彼は身を起こした。
「……肘の具合はどうだ」
 ああ、きた。ずくりと疼く肘に意識を向けないよう、朔弥はぎゅっと右手で拳を握った。
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