• テキストサイズ

【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第5章 フォトジェニックな彼ら


 幼い子供が危なっかしげにジュースの入ったグラスを持って歩くのを、二人揃ってハラハラと見守っていたところで料理が来た。普段よりも少し遅めの昼食。皿の上のご馳走は、あっという間に胃袋の中へと消えた。
「この後どうする?」
「何も決めていなかったな」
 まだ少し物足りなさそうな牛島がちらりとメニュー表に視線を送る。本当に良く食べるなあ、となんだか少しおかしく思いながら、朔弥は何気なく外へ意識を向けた。
 窓越しに見上げた空は、晴れやかに澄んだ青。乾いた刷毛で撫でたような薄い雲も、その下を歩く人々も、なんともゆっくりと進んで見える。行楽日和、その言葉が浮かんだ。
「どこか行きたいところとか、ある?」
「特にない」
 おまえはどうだ? と聞き返され、朔弥は細い顎先に指を掛ける。花見の時期はとうに過ぎた。街中をウィンドウショッピングしつつ歩くにも、先ほど買った物の他に欲しいと思う物もない。んー、と唸る朔弥に、これは天童から預かったんだが、と前置きを置いた牛島が飲み干した透明のグラスを置いて、かわりにポケットから一枚の紙切れを取り出した。
「なに? リスト……?」
「ああ。困ったことがあればこれを読め、と言われた」
 君たち初めてだもんねー、と含みのある笑みを浮かべた天童が、何を意図してそれを牛島に渡したのか。それは目で文字をなぞればすぐにわかった。
「部員みんなに聞きました! オススメ☆デートスポット❤︎トップ10」
「若利、そこ声に出さなくていいから」
 スン……、と真顔になった朔弥が牛島を制止する。そうか、と口を閉ざした牛島が広げているメモの、少し丸い癖のあるその文字にざっと目を通した。
「映画館、動物園、水族館、遊園地……天文台とスペースタワーを選んだの獅音だね、きっと」
「図書館は白布だろう」
「地底の森ミュージアムって一年の時課外授業で行ったし! 誰だよ!」
「山形じゃないか?」
「あー……そういや隼人はあの頃まだいなかったか」
 観たい映画があるわけでもなく、遊園地などの観光施設はこの時期どう考えても人が多そうだ。なによりもふらりと行くにはやや場所が遠い。案を出してくれた彼らには申し訳ないが今回は参考になりそうもなかった。
 連休中でも人が少なくて、近場にあるポイントは——。
「あ、じゃあさ、あそこはどうかな」
「どこだ?」
/ 54ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp